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花が開いたような形だが、表面は鈍い金や銅、黒色に覆われ、まるで錆（さ）びた鋼のよう。
　出品作「黒錆彩花器」が、昨秋の「第七回益子陶芸展」（栃木県）で、二つの最高賞のうちの一つ、加守田（かもだ）章二賞を受賞した。「二十世紀の陶芸界の鬼才」とも言われ、若くしてこの世を去った作家の名前を冠した同賞。受賞作は「土味と造形が綾（あや）なす凄（すご）みが、見る者の心を惹（ひ）きつける」と評された。

　埼玉県生まれ。早稲田大建築学科卒業後、建設会社に就職したが、二年で退職。多治見市陶磁器意匠研究所で二年間学んだ。引き続き同所で三年間、助手や嘱託職員を務めた後、作家活動に入った。

　学生時代に所属した陶芸サークルでの体験はあるが、定職を辞めて陶芸の道に入ったのは「直接的にものを作れ、最初から最後まで一人でかかわれる仕事の方が向いていると思ったから」。自分の生き方に忠実だ。

　一年半ほど前から、製陶所が密集する土岐市下石町で暮らす。元絵付け工場という八十平方メートルほどの工房には、大きな鳥がはばたいているような形のオブジェ、筒型の花器が置かれていた。益子陶芸美術館の所蔵品となった受賞作と似た風合いだ。

　粉末状のマンガンや銅を混ぜて水でとき、塗る。「温度や厚みで色が変わってくる。最初のころに比べ、多少コントロールできるようになってきた」

　はた目には花や鳥のように見えても、特に具体的な形をイメージして作るのではなく、「自然と内から出てくるもの」を表現しているという。「自分のスピード」で土と向き合い、少しずつ探りながら、求める「きれいな曲線」を生み出していく。

　もう一方で取り組むのは器作り。厚手の取っ手が特徴的なティーポットやカップは、柔らかな曲線と白っぽい色合いが温かみを醸し出す。茶碗（わん）は、外側はオブジェに通じる渋い風合い、内側は銀が施され、異彩を放つ。

　「意匠研でいろいろな人と知り合え、今の環境も結構満足している。不安感はあるが、それは好きなことをやっていられることの対価ですから」。落ち着いた物腰に、芯の強さを感じさせた。（有賀博幸）